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コンゴとアフリカの過去を振りかえ、それらの現状と今後を考えた上で、次の行動へのきっかけになることを願っています。
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国連人権高等弁務官事務所(UNHCHR)は10月1日、1993年―2003年に起きたコンゴ民主共和国(旧ザイール)の人権状況に関する報告書(Mapping Report)を公表し、ツチ主体のルワンダの現政府軍らが1996~97年、ザイールに避難していたフツ系ルワンダ難民やコンゴ住民ら数十万人を殺害したことについて「虐殺の罪に当たり得る要素がある」と結論付けました。この人権侵害の調査は最も包括的であり、1,280人以上の目撃者のインタビューを基に全国で起きた617の事件が掲載され、少なくとも1500の参考文献が収集され分析されました。ただし本報告書は司法調査ではなく、コンゴのどの地域で何が起きたかを浅く広く調査するものであり、「虐殺」と断定するかについては裁判所が決めるとしています。
 
8月下旬に仏紙Le Mondeに漏れた報告書草案の書き方はかなり断定的で、ルワンダ側は報告書公表前から猛反発し、スーダン・ダルフール紛争の国連平和維持活動(PKO)に派遣しているルワンダ部隊を撤退させると脅迫しました。国連潘事務総長が9月7日にわざわざルワンダを訪問し、「ルワンダ部隊を撤退しないように」と要請をしたほどです。報告書が公表される前日に、ウガンダ政府もソマリアに展開しているアフリカ連合に派遣している部隊を撤退すると発表しました(その後撤回する)。コンゴの隣国の外圧もあったからか、報告書草案と比較すると最終版のトーンはソフトになっており、「外見上は(apparent)」「伝えられるところによると(allegedly)」という単語が多少増えたのですが、内容は基本的に同じです。
 
この報告書で最も汚名を着せられたルワンダ政府は、ブルンジ、ウガンダとアンゴラの3カ国と共に報告書を否定しています。その一方で、コンゴは「報告書は詳細に書かれており、信頼できる」と報告書を歓迎しました。北米にいるコンゴ人のダイアスポラ(現カビラ政権から逃れた難民も多い)は「草案を最終版報告書として公表するべきだ」とデモを行い、ルワンダの野党は「残虐行為を犯した現ルワンダ政権は、国を統治する資格も権利もない」と訴えています。
このコンゴでの「虐殺」は決して新しい情報ではなく、国連の調査団によって1998年に既に知られていました。当時のL・カビラ大統領からの許可がおりず国連は調査を中断したのにもかかわらず、国連や人権団体は報告書を公表したのです。私はコンゴ東部で勤務中、現地の人やルワンダ難民からルワンダ軍やコンゴ軍・武装勢力によって殺された証言を何回も聞いていたので、この真実が公表されて個人的に嬉しい思いです。コンゴでの「虐殺」に関しては、著書の「世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国」(創成社)の11,44,166ページにも書きましたので、ご覧ください。
今回の調査に関しては、2005年にコンゴ東部で大規模な墓地3か所が発見され、翌年当時のアナン国連事務総長が調査することを決定したのです。この報告書を機に、大湖地域レベル、また国際レベルにおいて不処罰(impunity)を終わらせることができれば、大湖地域に持続的な安定をもたらされることができるでしょう。しかし疑問がいくつか残っています。ここでは2つ挙げたいと思います。

 
まず初めに、ルワンダ、ウガンダやブルンジが過去の「Justice」(裁判や司法)より、現在の「Peace」(=見かけだけの政府、軍の形成や国交関係)を優先させていることです。今回の報告書に対する3カ国の反応は、「せっかく大湖地域が安定に向かいつつあり、また3か国はPKOに参加するなど世界の平和のために貢献しているのに、その努力に関して報告書は何も触れず」「10年前のことを今頃掘りおこしても遅い。この報告書が原因で再び不安定にする」「『二重の虐殺(double genocide)』の理論の妥当化している(1994年のルワンダ虐殺では一般的にフツ過激派がツチを虐殺したと知られているが、その反対もあったという意味)」という議論に集中しています。紛争の原因や要因を対処せず、形式の和解だけをし、過去の「臭いものには蓋をする」という態度があるため、現在も人権侵害という悪循環が続いています。実際に今年730日から82日までに、コンゴ東部では武装勢力が女性235人、少女52人、男性13と少年3人を数回にわたって集団レイプをし、家900軒を略奪し、116人を拉致したという事件が起きました。(迅速に処理しなかったPKO軍は過ちを認めた)。

2つ目に、報告書の次のステップとして、当然司法的なアクションが期待されますが、それが大変疑わしいことです。コンゴのアトキ国連大使は「犠牲者のために裁判と補償が必要。国際社会と一緒に司法制度を整備する必要がある」という声明をだしましたが、それは市民を平静にするための「芝居」であったと言われています。今年6月初めにコンゴ人の有名な人権活動家が首都キンシャサで殺害されて以来、コンゴの市民団体はますます政府に不信感を抱くようになり、政府にとって野党以上の脅威となりました。そして報告書草案が漏れたことを機に、93220の団体が裁判、犠牲者への補償、そして和解を政府に求めました。来年11月の大統領選挙を控えている現在、政府は市民の支持を得るために、市民団体の要請に対処していると返答するしかなかったのです。

司法的な行為に対するコンゴ政府の献身さが定かでないのは、もし本当に加害者を裁くのであれば、19967年当時少将であった現カビラ大統領、そして彼の「親分」であるカガメ大統領(当時副大統領・防衛大臣)も裁かれることになるからです。最近は信頼度が低下したとはいえ、後者は西欧諸国とは親密な関係にあるため、これはほとんど非現実的な話です。その証拠として、ルワンダ国際戦犯法廷(ICTR)では現ルワンダ政権(RPF)の人は誰一人起訴を受けていません。ICTRの前デル・ポンテ検事はカガメ大統領と政府軍を起訴する証拠があったのですが、カガメ大統領と現政権を守る「取引」があるアメリカ(ポンテ検事)から、その告訴を取り下げるように要請を受けました。彼女はそれを拒絶したため、2003年アメリカによって解雇されたのです。また今回の報告書に関しても、ルワンダ政府はダルフールからPKO軍を撤退しないことを条件に、国連は司法的な行為をとらないという「交換条件」があったと言われています。
 
国際刑事裁判所(ICC)に関しては、20027月以降起きた戦争犯罪人や人道に対する罪のみを取り扱っていますので、ICCのタイムリミットを変えない限りこの報告書に掲載されている加害者はほとんど起訴を受けることはありません。2002年以降起きた戦争犯罪に関しては、コンゴ政府は既にICC4人起訴していますが、全員「プチ」戦争犯罪人であります。主要な戦争犯罪人の一人であるンタガンダ氏(コンゴ武装勢力の元幹部)はICCに起訴を受けていますが、コンゴ政府との間で彼を逮捕しないという密約が結ばれたといわれています。もう一人のンクンダ氏は、1年以上にわたってルワンダ政府によって不法に「逮捕」されています。この二人に対して、国連は沈黙状態を保っています。このような主要人物が起訴されない限り、上記のような集団レイプ事件は絶えないだけでなく、近い将来紛争が再燃してもおかしくないでしょう。
 
最後になりますが、報告書に書かれたコンゴでの残虐行為は日本の市民とも決して無関係ではありません。日本を含むドナー国によるルワンダへの拠出金が19971999年の間に$26.1millionから$51.5 millionへと倍増しましたが、そのおかげで、ルワンダはコンゴに侵攻・侵略できたと言われています。我々の税金がODAPKOを通して、このような紛争にも使われている可能性を認知した上で、現地で起きている人権侵害にも目を向け、人権外交について議論をする必要があります。
 

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プロフィール
HN:
米川正子
性別:
女性
職業:
大学教員
趣味:
旅行、ジョギング、テコンドー、映画鑑賞、読書
自己紹介:
コンゴ民主共和国(コンゴ)やルワンダといったアフリカ大湖地域を中心に、アフリカでの人道支援や紛争・平和構築を専門としています。
過去にリベリア、南ア、ソマリア、タンザニア、ルワンダ、コンゴなどで国連ボランテイアや国連難民高等弁務官事務所職員(UNHCR)として活動。南アの大学院でコンゴ紛争について研究し、2007年―2008年には、コンゴ東部でUNHCRの所長として勤務したこともあり、その経験を活かして現在アドバカシ―に力を入れています。
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